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不器用なタッシュ

第13章 奪回

俺の絵を見て感動して泣いていた香織の顔が、ついこないだの如く蘇る。


「早く会いてぇな……」


俺は居てもたってもいられなくて、香織にメールをした。


『仕事の目処たつ時間教えて』


送信して、間もなく返信が返ってくる。


やっぱり香織はマメだな――
などと、自分の杜撰さを棚に上げて気分を良くしていると――――


『分かった。15時に一旦メールするから』


予想外の内容が画面に浮かび上がっていた。


「あぁ? なんで15時何だよ!」


一般企業で働いたことがない俺は仕事の流れなど把握する気がなくて、香織が終わる時間を誤魔化そうとしているんだと疑ってかかる。


一日の仕事の量くらい、把握できんだろ!


『その前に昼にくれる』


俺は百歩譲った気持ちで、待つことにすると


『分かった』


3分後に、たった一言だけ返ってきた。


ちょっとイラッとしたけど、余り感情的になるのは良くないだろう。


今香織は、俺と帰るためのやり取りをしたんだから……

少なくとも、小田切のことを考える時間は減るだろうさ。


香織への独占欲――――

小田切への優越感――――


この二つが混じり合った色は何とも甘美で、俺の自尊心を鮮やかに彩ろうとしていた。

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