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不器用なタッシュ

第14章 発動

自分らしくない猫かぶり。


胡散臭いいい子ちゃんぶりも単純な辻さんは見破ることなく、益々テンションを上げていく。


「だよね! だよね~! この企画を聞いたら、カッティングさんも渡辺さんも、凄く喜ぶだろうね。今から楽しみ過ぎて、毎日大興奮だよ!」


「……ええ。本当に……」


これには俺も、自然と口元に笑みが浮かぶ。


最大の切り札は、用意できている――――。


これには流石に小田切だって、関与出来ない。
てか、させねぇし!
イタリアに行くのは、香織の長年の夢なんだから。
それを叶えるために、俺はずっと頑張ってきたんだ!


この話を聞いたら、香織だってきっと目を覚ます筈だ。

きっと――――。


一人賑やかな辻さんの声をぼんやりと聞き流しながら、香織の笑顔を思い浮かべる。


胸の奥が指で摘まんだみたいに、小さく痛みが疼く。


なぁ香織――イタリアで一緒に、月を見よう。



『来週の打ち合わせ、俺も行くから』


ミーティング一週間前、俺は香織にメールを送った――――。

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