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不器用なタッシュ

第14章 発動

「じゃぁ、乾杯しましょうか!」


もう企画が成功したかのように、ご機嫌な辻さんが乾杯の音頭を取る。


今なら烏龍茶だけど、酔えそうな気分だな。


優越感に浸りながらグラスに手を伸ばしかけた時――――ドサッ!


――――香織の顔が真っ青になって、突然畳に倒れこんだ。


「えっ! 渡辺さん!」

「わぁ~!! 渡辺さん、大丈夫ですか!」


香織の異変に乾杯どころではなくなって、三人共急いで香織に近寄っていく。


顔を覗き込むと香織は、辛そうに顔を顰めている。


意識はあるな――――。


以前、目の前で香織が貧血で倒れた時はらしくなく焦ったが、今回は色々思い当たる節がある分、冷静でいられた。


極度の緊張。

若しくは――――。


ある一つの可能性に、エクスタシーにも似た感覚が脳天に衝きあがってきて、一瞬頭が宙に浮いた気分になった。


黙り込んでいる俺の横で、辻さんが泣きそうな勢いで慌てだす。


「わぁぁ~! 僕が無理に乾杯なんかしたから!」


「辻さん、大丈夫です! 元々渡辺は体調が悪かったんですから」


「で、でも。どうしよう……」


まるで自分が香織を気絶させたみたいに、パニックになっている辻さんを井関さんが何度も宥めた。


そんな二人を横目に、香織の頬を覆う乱れた髪を指先で払う。


「香織……」


貧血で冷たくなっている香織の肌に反して、俺の指先は火を灯したみたいに熱を帯びていた。

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