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不器用なタッシュ

第14章 発動

車まで香織を運ぶのも俺の役目になった。


横抱きだと通路が通りづらいし、目立つのもあっておんぶして運んだ。


そういえば、香織をおんぶするのって、初めてだよな――。


こんな些細なことが、妙に嬉しく思えた。


それも香織だけじゃなく、もう一人いるかと思うと、尚更誰にも触らせたくない――――。


「須永さん、ご迷惑お掛けします。渡辺を宜しくお願いします」


「はい。無事に送り届けますので。送ったら井関さんにご連絡しますね」

「ありがとうございます」


思いっきり申し訳なさそうに頭を下げる井関さんに笑顔で返し、俺は静かに車を走り出させた。


「渡辺を宜しくか……くっくっ!」


何も事情を知らない人物からの今更の言葉が滑稽に思えて、笑いが込みあがる。


言われなくても、香織の全てを担っていくさ――――。


■□■□■□

香織のアパートの駐車場に着いてから、小一時間ほどして香織が目を覚ました。


「んっ……イタリア……?」


おいおい、寝ぼけているとはいえ、イタリア行きがそんなに衝撃だったのか。


笑いそうになるのを抑えながら、香織の寝起きボケに付き合ってやる。


「イタリアじゃないよ。まだ、日本」

「なっ!! 何で?」


俺の顔を見た瞬間、香織の表情は驚愕と恐怖に変色した。

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