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不器用なタッシュ

第14章 発動

そんな香織の顔も、いつもなら不愉快に感じるが今日は『仕方がない』。


何もなかったように香織の方に顔を少し傾け、話を続ける。


「香織が倒れたから、車で来てた俺が送る事になったんだよ。アパートは知らないフリしておいて聞いたけど」 


「……分かった。ありがとう……。じゃあね」

「ふらつくだろ、部屋まで送るよ」

「いい! 大丈夫だから!」


急いでこの場から去ろうとする香織を引き留めるのに手を伸ばしたが、勢いよく叩かれた。


そんな行動を自分でも驚いたのか香織は一瞬固まったが、直ぐに怯えた目をして身体を萎縮させる。


まるで手負いの獣だな。
先ずは宥めるか――――。


少しでも香織の興奮状態を落ち着かせようと、声のトーンを和らげて話しかけていく。


「香織? どうして、そんな不安定なの? 人前じゃそんな感情、見せないだろ」


そうだ、俺の前でも早々感情を高ぶらせなかった香織が、こんなに情緒不安定なのは『仕方がない』んだ。


きっと今なら、香織に頬を叩かれようが、手を噛み疲れたとしても全て愛おしく思えるだろう。


「なっ! ……うっ……!」


妙に落ち着いている俺に香織は露骨に怒りを露わにしたが、咄嗟に口元を覆い前屈みになり、苦しそうに呻きだした。


「くっ……」


香織の嘔気が、車内に響く。

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