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不器用なタッシュ

第14章 発動

ゾクゾクする――――。


吐き気で苦しんでいる香織の姿に、心配より先に幸福感が沸き上がる。

俺たちの未来へ繋ぐ宝物が、香織の中に宿っている確信が増幅しいく。


「香織?」

「嫌っ! 触らないで! ……うぅっ……!」


労わるように穏やかな声で話しかけたが、香織は肩を竦めて身体を丸くして、俺から逃げようとした。


『仕方がない』な――――今なら何でも、この一言で自分に余裕が持てる。

体調の変化は、精神的に不安を引き起こすのだろう。

結婚したら子供は欲しがっていた香織だけど、まだ心の準備が出来ていないのかもな。

だったら香織自身に起きている現実を明確にして、共有してやることが必要だろ?


何より香織の口から、『俺の子』が、腹の中に居ると聞きたかった――――。


「香織……なんで酒強いのに避けたの?」

「体調が悪いって、言ったじゃん……」

「どこが悪いの?」

「嘉之には関係ない!」


ゆっくり問い詰めていく俺の目を香織はそっぽを向いて避ける。


頑なに答えない香織が物凄く愛おしくさえ思えるが、余り長引かせるのは俺の性分じゃない。


俺は黙って一瞬間を空けてから、ダメ押しをした。

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