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不器用なタッシュ

第17章 強行突破

「ちっ!」


ここを突かれると、反射的に怯んでしまう。


勢いが収まった俺に、香織は更に追い打ちを掛けてくる――――。


「私は、その一言さえもらえたら、嘉之に何が何でも着いてく決意してたのに!」

「えっ……そんな一言で……」


『好き』――――この二文字に、そんな効力があるのか?

好きって言ったって、どうせ離れていくじゃないか――――

唯一信じられた香織だって、離れていこうとしているじゃないか――――

あぁ――でも――――


「そうよ! それくらい単純よ! 何も要らなかった! 欲しかったのは『好きだ』って一言だけよ!」


俺から『好き』って、発していないんだ――――。


香織は堰を切ったように、瞳から大量の涙を流し始める。


さっき俺が胸の内を吐き出したみたいに、香織からも蟠っていたものが溢れ出てきた。


だけどこの時の俺は『トラウマ』に触れられるのが怖くて、香織に気持ちに向き合うことが出来ないでいた――――。


「どんなに願っても……その一言だけは……六年間、一回も聴けなかったよ……」


どうすれば良かった――――?

俺は言っていないの――――『好き』って、言わせなければ良かったのか?

あぁ――――こんなことなら言っても言わなくても同じじゃないのか――――?

なら、言う必要あるのか――――?


『好き』なんて――――。


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