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素直になれるか?

第1章 こんなはずじゃ…

「加瀬宮くん、大丈夫?無理しないでね」
机に突っ伏してた俺に、触れてきたのは川波絵梨だった。
同じ企画課のメンバーの一人。
良く気がつき、誰もがいい子と称する明るい女子社員だった。

「あぁ、うん。大丈夫。ありがとう。具合が悪いわけじゃないんだ」
上体を起こし、笑顔で応える。

少し前まで大腿骨の骨折で会社を休んでいたせいか、やたらと心配される。
ちょっとでもため息などつこうものなら、休んでて!とどこからともなく声がかかる。
それはそれで嬉しいことなんだけど…

足の固定が先日やっと外れたところで、まだ思うように体を動かせないのが知らずストレスになっているようだ。

「ならいいけど…でも課長も少し冷たいわよね。加瀬宮くんあまり気にしない方がいいよ」

絵梨が小さくため息をついて、それから笑いながら飴玉を差し出してきた。

「分かってるよ。怪我のせいだから仕方ない。リハビリも順調だし、完全復活したらまたこき使われるって思えば、いい休暇だよな」


ついさっき、新しいプロジェクトが始動した。
駅前に大型ショッピングモールの建設予定が知らされ、そこに入る大規模食料品売り場へのアプローチだ。
内海課長ももちろんプロジェクトの中枢の立場に置かれ、あちらこちらと飛び回るんだろう。


「そうそう。せっかくの内勤命令だし、この資料整理の大役を君に分けてあげましょう」

絵梨は鈴を転がすように笑いながら、抱えていた2冊のファイルを俺に突き出した。



そう。
そのプロジェクトに俺は戦力外通告を受けたのだった。

「加瀬宮は、この件に関して動かなくていいから。治療に専念して、元の体に、戻せ」

内海課長に言われた言葉が信じられなかった。
こんな大きなプロジェクトから外されたら、同じ課のフロアにいるのにどうしたってすれ違うのは目に見えている。

それ以前に。



課長は、あの日から俺と目を合わせない。

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