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僕らのために

第2章 夏空

「そういえば、お前建築士になりたかったんだな。知らなかった。工学部に進みたいっては聞いたことはあったけど」
武田はポリポリと頬をかいた。
「まあな。なんていうか、普通に話してたら将来のことって話す機会あんまりないだろ?隠してたってわけじゃないんだが…。昔は親父みたいに大工になるかって考えてたんだけど、親父が『俺みたいな腕一本の大工はちょっと身体壊しただけで職を失うから、勉強もしとけ』って言ってな。じゃあせっかく勉強するなら、建築士の資格でも取るかって。単純だろ?」
「ま、俺たち高校生の夢なんてそんなもんだろ。俺なんて自分が何に向いてるかとか全然分かんないしな。目標が決まっているだけいいんじゃないか?」
「ははは、お前はなまじっか器用だからな」
僕らは荷物を良さげな場所に置いて、海を見て、水平線のあたりをぼんやりと眺めた。
あの水平線の先にいつか陸地があることはみんな知っているが、僕らはそこまでの距離を知らない。地図で見れば分かるという人もいるかもしれないが、それは少し違う。地図で測った距離は目安でしかないのだ。僕らにとっては、「とにかく遠く」でしかない。

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