
僕らのために
第1章 プロローグ
「まさか娘に自分の昔の恋の話をする日がくるとはなぁ。母さんに聞かれたりしないかな」
私は呟いた。
「大丈夫だよ。お母さん昔のことは割りきるタイプだから」
45歳を迎えた私は、夏休みの初日に娘から昔の恋の話をしてほしいとせがまれた。
「しかし、なんだって急に」
「いいじゃん、恋にやぶれた娘の気を紛らわせてよ」
娘の由紀は先日告白して失敗した。相手はサッカー部の先輩らしいのだが、私は娘の恋の相手を見たことはない。ちょっとほっとしている気持ちも、娘が好きになった男を一目見てみたかった気持ちも、両方ある。
「男の気持ちの勉強しておかないとね」
そう言って由紀が笑った。告白した日の夕食時に見えた涙の跡はもう消えたが、まだ笑顔にはどこかに棘が残っていた。
てっきり女の子は高校生にもなったら父親は嫌いになるものだと思っていたが、我が家では母親が注意する役で、僕がなだめる役だから、けっこうなついてくれている。こんな笑顔を向けてくれることが、正直ちょっと嬉しい。
「男の気持ちと言ったって、30年近く前の話だぞ」
「いいからいいから。お父さん背が高いのに、そうやってウダウダ言うからモテなかったんじゃない?」
私は呟いた。
「大丈夫だよ。お母さん昔のことは割りきるタイプだから」
45歳を迎えた私は、夏休みの初日に娘から昔の恋の話をしてほしいとせがまれた。
「しかし、なんだって急に」
「いいじゃん、恋にやぶれた娘の気を紛らわせてよ」
娘の由紀は先日告白して失敗した。相手はサッカー部の先輩らしいのだが、私は娘の恋の相手を見たことはない。ちょっとほっとしている気持ちも、娘が好きになった男を一目見てみたかった気持ちも、両方ある。
「男の気持ちの勉強しておかないとね」
そう言って由紀が笑った。告白した日の夕食時に見えた涙の跡はもう消えたが、まだ笑顔にはどこかに棘が残っていた。
てっきり女の子は高校生にもなったら父親は嫌いになるものだと思っていたが、我が家では母親が注意する役で、僕がなだめる役だから、けっこうなついてくれている。こんな笑顔を向けてくれることが、正直ちょっと嬉しい。
「男の気持ちと言ったって、30年近く前の話だぞ」
「いいからいいから。お父さん背が高いのに、そうやってウダウダ言うからモテなかったんじゃない?」
