テキストサイズ

開花

第1章 ―

 悲劇が再び起こったのは、夕食の時間でした。

 ご飯の最中、いきなり背中がむずむずと、蚊に何箇所も刺されたみたいにかゆくなるのを感じたのです。

 さっきあれだけ洗ったのに、かぶれたりしてないかなぁと、冷や汗をかくほど不安になっていました。

 と、その時にお兄ちゃんが、お前なんか、背中が膨らんでないかと何気なく言ってきました。

 わたしはびっくりして、恐る恐る服の上から背中を触ってみました。

 まるで気泡緩衝材をなでているような感触がしました。

 それになんだか、服がぬめぬめと濡れていたのです。

 わたしは叫び声をあげて、洗面所へと駆け込みました。

 勢いよく服を脱いで、背中を確認してみます。

 見ると、背中にはビー玉の大きさくらいの白い粒が、点々と付着していました。

 そしてその中心にある黒く丸いものが、ゆらゆらとひしめいていたのです。
 
 先ほどあれだけ熱心に洗ったのに、いったいどういうことなのだろう。

 わたしはもはやどうすることもできず、ただただ震えていました。

 お母さんがわたしの名前を心配そうに呼びながら、洗面所へと入ってきました。

 お母さんは鏡に映し出されている、卵にびっしり覆い尽くされた背中を見て、甲高い悲鳴をあげます。

 不意に、ひとつの卵がぴしりと割れて、中から真っ黒で細長いものがはい出てきました。

 それはてのひらに乗りそうなくらいの大きさの、オタマジャクシでした。

 頭が膨らんでいて、音楽の時間で使う楽譜に書かれている音符みたいでした。

 オタマジャクシは糸を引きながら、ゆっくり床に落ちていきました。

 しかしそこが水場ではないためか、ぴちぴちと、まるで陸に打ち上げられた魚のように小さな体を振っていました。

 続けざまに、ぴしりぴしりと他の卵も割れて、次々と、まるで雨あられのように、中から黒い怪物がはい出てくるのでした。

 わたしの背中からわらわらとオタマジャクシが出てくる様子がどれほどおぞましいものだったのか、想像にかたくないでしょう。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ