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undecided

第2章 ポルカ

 耳を澄ましていると、またも優斗の心の内は熱く、そして無性に寂しくなってきました。どうしてそんな気持ちになるのか、優斗にはさっぱりわかりませんでした。

 さっぱりわかりませんでしたが、優斗はその寂しい気持ちを抑えることがどうしてもできませんでした。いつしか優斗の頬には、一縷の涙が伝っていました。どうして涙が流れるのか、優斗にはちっともわかりませんでした。

 いよいよ優斗は、うっうっという嗚咽をもらし始めてしまいました。まるでいけないことをしていることがばれてしまったかのように、ゆらゆらと響いていたピアノの演奏が、ぴたりと止まりました。

 優斗は場を取りつくろう言葉を言いたかったのですが、その声はくぐもった嗚咽となってしまい、言葉という言葉になりませんでした。

「……優斗さん?」

 女の子は言いました。その声はたしかに震えていて、どこか不安を抱いていそうでした。優斗はせめて返事だけでもしようとして、なんとか、「はい」と言いました。

「どうして泣いているのですか?」

 そのように聞かれましたが、自分でもどうして悲しいのかがちっともわからなかったので、優斗は何も答えられませんでした。

「泣かないでください。泣かないでください」

 女の子は優斗のことをなだめようとしましたが、それでも涙は止まりませんでした。優斗はもう隠そうともせずに、母親とはぐれてしまった子どものように、大きく大きく泣きました。恥ずかしい気持ちもあったのですが、そんなものはせきにはならなかったのでした。

 ふわりと、優斗の右手が優しく握られました。重ねられた手はとても冷たく、ひやりとしていました。

「どうか泣かないでください。涙の向こう側に、幸せはあると思いますか?」

 女の子は優しく言ってくれました。優斗はなんだか、女の子の言った幸せという単語が、いやに場違いに、そしておかしく感じました。だってまるで、泣いている優斗が不幸であるかのように言うのですから。

「私がそばにいますから、お願いです、泣かないでください」

 女の子はそう言ってくれましたが、優斗が泣き止むまで数分の時間を要しました。その間、女の子は何も言わずに、優斗の手を握ってくれるのでした。

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