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第1章 レグルージュのもとに

 優斗がそのようにしていると、「誰?」と部屋の奥から声をかけられました。優斗はびっくりして、「二年三組十九番、須藤優斗です」と、まるで先生に問題を答えるよう指された時みたいに、はきはきと言いました。

「なんの用ですか?」

 真っ暗なので何にも見えませんでしたが、部屋の奥には誰かがいるようでした。少し強い語気でしたが、その透き通った声の感じから判断するに、自分と同い年くらいの人かなと優斗は思いました。どうやら女の子のようでした。優斗と同じ、この学校の生徒なのでしょうか。

 優斗は思わず気をつけをしてしまいながら、言いました。

「別になんでもありません。忘れ物を取りに学校にきたんですが、部屋から電気がついていないのにピアノの音がして、おかしいと思ったんです」

「そうですか」

 するとどうでしょうか、またもピアノがぽろんぽろんと鳴り始めました。まるで優斗のことなど、もう気にかけないかのように。

 優斗は入口に立ったまま、よく目を凝らしました。ほの暗いためにほとんど見えませんでしたが、ピアノの前の椅子に、誰かが座っているようでした。

 その姿勢のために正確にはおし量ることができませんでしたが、そんなに背は高くないようでした。優斗と同じくらいか、あるいは少しだけ高いくらいでしょうか。
 
 はたして電気をつけていいものかと、優斗は迷いました。また、どうして明かりがないのに、ピアノを演奏できるのかが気になりました。

 何年も何年も練習を重ねれば、鍵盤が見えなくてもピアノを演奏できるようになるものなのかなぁと、優斗はぼんやりと考えるのでした。女の子の演奏は、本当に流暢だったのです。

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