undecided
第1章 レグルージュのもとに
優斗は暗闇の中なのでゆっくりと、ピアノのそばに寄りました。顔ははっきりと見えませんでしたが、女の子が長い髪を腰の辺りまで伸ばしていることがわかりました。女の子は椅子に座ったまま言いました。
「あまり面白くないとは思いますが、よろしければお話を聞いてくれますか?」
「はい」
「優斗さんは音楽家といわれて、どのような人が頭に浮かびますか?」
いきなり尋ねられたので、優斗は咄嗟に思いついたベートーヴェンの名前をあげました。それからバッハにショパン、ちょうど音楽の授業で扱っている『我が祖国』の作曲者、スタメナの名前をあげました。
「それらの音楽家は皆男性ですよね。音楽史で学ぶのは男性がほとんどです。ですけれども、この曲は違います。『レグルージュのもとに』を作曲したのは、ポルカという少女です」
女の子の説明を聞いて、確かに教科書に女性の音楽家はのっていないなと、優斗は変に感心しました。
「レグルージュというのは、どうやら人の名前のようですが、詳しくはわかりません。ポルカの親しい人物だったのか、それとも彼女の幻想の中に生まれた人物なのかも」
女の子はピアノの鍵盤蓋を静かに閉じました。
「ポルカは十四歳の時にこの曲を作曲しました」
優斗はびっくりしました。自分とちょうど同い年の人が、そんな才能を持っていたのかと、ひどく感心してしまいました。十四歳というと、優斗にはまだまだ子どものように思えました。よくよく考えてみれば、才能と年齢は、そこまで関係がないのかもしれません。
「そしてポルカは、作曲のすぐ後に馬車にひかれて、帰らぬ人となってしまったのです」と、女の子が悲しげに言った時です。
電灯が数秒ちかちかと点滅してから、明かりを灯しました。いったいどうして今まで明かりがつかなかったのか、優斗にはわかりませんでしたが、ともかくもやっとのことで、女の子の顔を見ることができたのでした。優斗の予想通り、ちょうど自分と同い年くらいの女の子でした。
それにしてはずいぶんと落ち着いた話し方をするので、優斗はお金持ちのお嬢さんなのかなぁと、妙なイメージを抱いていました。
「あまり面白くないとは思いますが、よろしければお話を聞いてくれますか?」
「はい」
「優斗さんは音楽家といわれて、どのような人が頭に浮かびますか?」
いきなり尋ねられたので、優斗は咄嗟に思いついたベートーヴェンの名前をあげました。それからバッハにショパン、ちょうど音楽の授業で扱っている『我が祖国』の作曲者、スタメナの名前をあげました。
「それらの音楽家は皆男性ですよね。音楽史で学ぶのは男性がほとんどです。ですけれども、この曲は違います。『レグルージュのもとに』を作曲したのは、ポルカという少女です」
女の子の説明を聞いて、確かに教科書に女性の音楽家はのっていないなと、優斗は変に感心しました。
「レグルージュというのは、どうやら人の名前のようですが、詳しくはわかりません。ポルカの親しい人物だったのか、それとも彼女の幻想の中に生まれた人物なのかも」
女の子はピアノの鍵盤蓋を静かに閉じました。
「ポルカは十四歳の時にこの曲を作曲しました」
優斗はびっくりしました。自分とちょうど同い年の人が、そんな才能を持っていたのかと、ひどく感心してしまいました。十四歳というと、優斗にはまだまだ子どものように思えました。よくよく考えてみれば、才能と年齢は、そこまで関係がないのかもしれません。
「そしてポルカは、作曲のすぐ後に馬車にひかれて、帰らぬ人となってしまったのです」と、女の子が悲しげに言った時です。
電灯が数秒ちかちかと点滅してから、明かりを灯しました。いったいどうして今まで明かりがつかなかったのか、優斗にはわかりませんでしたが、ともかくもやっとのことで、女の子の顔を見ることができたのでした。優斗の予想通り、ちょうど自分と同い年くらいの女の子でした。
それにしてはずいぶんと落ち着いた話し方をするので、優斗はお金持ちのお嬢さんなのかなぁと、妙なイメージを抱いていました。