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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第4章 春の夢 四

 清七はその一部始終を老中の松平さまのお屋敷―立派なお屋敷をぐるりと取り囲む塀際に設置されている天水桶の後ろに身を潜めて見守っていた。
 二つの人影は男と女―、言わずと知れた伊勢屋お須万、そして愕いたことに男の方は六月にはお須万と祝言を挙げて正式な夫婦(めおと)となるはずの番頭嘉一であった。
 更に愕いたのは、嘉一の方がお須万より先に橋のたもとに辿り着き、桜の樹の下に置かれていたお千寿を抱き上げたことである。

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