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甘い蜜の―――……虜。

第2章 初めての一人暮らし。

「んんんっ……」


唇に感じた違和感は、オオノの唇だった。オオノは細く長い指で俺の両手を掴み、頭の上で押さえつける。


「んっ……何すっ……」


何するんだよ。そう言おうと口を開いた瞬間、オオノの舌が俺の口内に入り込んできた。


「ンンン……っ!?」


逃げる俺の舌を器用に追い回し、己の舌と絡み合わせる。
この行為を否定するように俺はオオノの舌から逃げる。その度に捕らえられ、その繰り返しでいつしか自分が息が出来ていないことに気づく。


「んんんっ、ふ……んうっ……」


オオノの胸を叩こうとした。しかし、俺の両手を掴んだ力強いオオノの腕がそれを許さなかった。


オオノの唇が俺の唇に触れてから、どれだけの時間が経っただろう。


五分経った気もするし、十分経ったような気もするし、もしかしたら一分間だったかもしれない。


時の流れすらも分からない状態だった。


「ンッ……」


なんだよ……何で、苦しそうな顔してないんだよ? こっちはこんなに苦しいっていうのに。


流石に息が続かなくなり、苦しくなった俺はオオノの舌を思いっきり噛んだ。


「いっ……!」


オオノが俺から離れ、口元をおさえた。俯き、黙っている。


俺は、思い切り息を吸い、ふらふらと情けなくその場に座り込んだ。


キス。そういった行為は、生まれて初めてだった。軽く唇を合わせたことすらないのに、ファーストキスがあんな濃厚な……。


視界が滲んでいた。ぽろっと、涙が一粒溢れるのを感じた。


「何しやがる……」


口元をおさえたまま、座り込んだ俺を見下ろしながら低い声で言い放つ。


「何しやがるっ……は、俺の台詞だろうがっ……お前こそ何すんだよ……!?」


「は……? お前……キスくらいで何泣いてんだよ……」


「キス……くらい……?」


立ち上がって、見下ろすオオノの頬を手のひらで叩いた。パンッ、という音が響いた。


「ふざけんなよ……っ!!」


吐き捨てるように言い、鍵を開け大きく音を上げて扉を閉めた。
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