イキシア
第2章 第一章
「王子、王子はどこだ!
一体どこにいる!」
「イキシア様、いらっしゃるなら返事をしてください!」
「くっ……もしや王子はまた光海へ行こうと……。」
「探せ、とにかく探すんだ!
国王様はもうカンカンだぞ!」
「王子様ー!」
「イキシア王子ぃ!」
「南波方面に行くぞ。
あそこには大門がある!
いいか、何としても王子を見つけ出せ。
光海なぞ行かせるな!」
「はっ!」
(……行ったか……。)
かしましい騎士たちの呼び声と足音が徐々に遠ざかっていくのを確かめてから、俺はわずかに息を吐いた。
従順な家臣とはこういう時ほど厄介なもので、少し頭が痛い。
「はぁ……。」
また一つ、溜め息が漏れる。
こんなことがすでに今まで何度あったか、もはや分からない。
「俺はもう子供じゃないっつうの。」
小さく悪態をついて、騎士たちから逃げるように東波方面の小門へと向かった。
暗海に住まう人魚たちの王国グラジオラス。
俺の父上様ギボウシは、この豊かな国を統べる王だ。
国中でも稀代の名君と名高い。
そんな国王の息子である俺――イキシアは、当然ながら正統な王位継承権を持つ王子ということになる。
王立騎士隊は国を守護することはもちろん、厳格な父上様や心配性の母上様から、俺の警備や監視を任じられている者たちだった。
度々国を抜け出そうとする俺に対しての、両親の苦肉の策だろう。
迷惑なこと、この上ない。
「まともに掛け合ったって、どうせダメの一点張りで聞いてくれないに決まっている。
だったらこっそり抜け出すしかないじゃんかよ。」
今さらそんな言い訳を呟いた。
申し訳ないとは思っている。
父上様に心配をかけ、母上様を不安にさせ、騎士や兵士たちを無駄に走り回らせて。
俺はきっと偉大な父上様に比べれば、出来の悪いダメ王子に見えるのだろう。
けれど、だからといっておとなしくしているつもりは毛頭ない。
俺がしたいことはただ一つ。
(今日こそ……光海へ出る。)