イキシア
第2章 第一章
十二歳の時、初めて両親に逆らって城を抜け出した。
どうしても光海に行きたくて。
あわよくば人間というものを見てみたいなんて、そんな淡い期待とスリルを抱いて。
それまで海はおろか、城からもまともに出たことのなかった俺にとっては、まさに決死の行動だったと思う。
結局俺の初めての冒険は、街を巡回していた兵士に見つかってしまい、あっけなく幕を閉じたのだけれど。
あれから六年。
気がつけば、俺は十八歳になっていた。
小さく頼りなかった尾ヒレもすっかり成長し、訓練された騎士たちの遊泳速度にももはやひけを取らない。
騎士からも人間からも、逃げ切れる自信は十二分にあった。
いざとなれば、自分の身くらい自分で守れる。
机上の知識でなく、本の中の空想でなく、この目で未知の世界を見てみたい。
ただそれだけが俺を光海へと突き動かしていた。
いつも城から抜け出しては見つかり、失敗に終わっているのだけれど。
「あった、小門!」
銀青色に輝く門を捉えて、俺の胸は少なからず高鳴る。
この国は四つの海門を中心とした四区域に分けられていた。
北波の《白虎(びゃっこ)》
西波の《玄武(げんぶ)》
南波の《朱雀(すざく)》
そして今、俺がいる東波の《青龍(せいりゅう)》
それぞれの区が一つの街として成り立ち、門によって民や商人たちは国と外海とを行き来している。
特に発展している北波の《白虎》と南波の《朱雀》には、大門と呼ばれる海門がそびえており、通行人も多いため関所が構えられていた。
逆に街もあまり大きくなく、門を通る者も少ない西波の《玄武》と東波の《青龍》には、小門と呼ばれる門が静かにそびえている。
この二つの門に関所はない。
兵士や国民に顔がバレている俺が光海に出るとしたら、どちらかの門を通るしか方法はなかった。