紅姫と黒猫の夜
第6章 抱擁
「姫君、そろそろ支度なさらないと、朝餉に遅れますぞ。」
従者・夏黄文は言う。
(姫は本当に悩ましいお方だ。今度はどの殿方のことを考えておられるのやら……)
顔からしてシンドバッドの事ではないらしい、ということは夏黄文にもわかった。
「ああ、すぐするわぁ。朝餉に遅れたら紅炎お兄様に怒られちゃうもの。」
紅玉はにこりと笑って見せる。
昨日の行動についてはわかったものの、あれからジュダルのことが頭から離れないのだ。
(おかしいわ、私、ジュダルちゃんのことばかり考えてる。シンドバッド様に負けないくらい……)
夏黄文は溜め息をつく。
(神官殿でしょう。もうそれは恋に近いですよ、姫君…)