紅姫と黒猫の夜
第10章 兄
「どうしたんだ?!なにがあった?!」
紅炎が声をあげる。
紅覇の目には、じわりと涙が浮かんできた。
「こ、紅玉が…血……腕、かいて…うぅぅぅぅぅ」
パニックからか、言いたいことが言えない。
「兄上、紅玉が自分の腕を、引っ掻いて血まみれに……」
かわりに紅明が説明する。
その声にも力がない。
「紅玉が?!」
「あねうえが?!」
「こ、紅玉姫は、ご無事でっ?!」
血まみれ、ときいて、皆が騒ぎだす。
「いえ、まだわかりません…今は神官殿にお任せしております……」
「うぅ…ひっく、こぉぎょくぅ…うわぁぁん」
紅覇は泣き出してしまった。
妹が死んでしまうかもしれないと思うと、悲しくて悲しくてたまらなかったのだ。
「しかし……紅玉はなぜそんなことを…」
緊張の面もちで言った。
彼とて、紅玉が心配なのだろう。