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ショートラブストーリー

第9章 貴史

家に戻ったものの。

人の気配は全くなかった。

6時か…。

リビングにある壁掛け時計で時刻を確認すると、電話の留守電機能のランプが点滅しているのに気付いた。

『あ、俺だけど。急に接待が入ったから夕飯要らないから。…貴史、ちゃんと食べろよ』

父さんからだ。

今日は母さんは夜勤の筈だから、俺一人って訳か。

冷蔵庫を開けると、サラダとチルド餃子が並べて置いてあった。

フライパンで餃子を焼いている間に、昨日の残り物の煮物をレンジにかける。

インスタントの味噌汁を作って…まぁ、こんなもんだろ。

テレビをつけて夕飯を食べる。

物音ひとつしない部屋でご飯を食べるのが嫌で、見るつもりのないテレビをつけるのが癖になってきた。

画面を追いながら食べてると、旨いとか不味いとかどうでもよくなる。

ただ。

食べないと、冷蔵庫の食材が減ってないことを不審に思われるから。

証拠隠滅みたいな気分で食べるから、余計にそう思うのかもな。

ペットボトルのお茶を飲んでいると、

「たかちゃん…?」

不意に聞こえた声にギクリとして振り返ると、階段の近くに美夜子が立っていた。

…何だよ、お前かよ。

誰もいないと思ってるから、メチャメチャ驚いた。

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