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ショートラブストーリー

第9章 貴史

「お前、窓から来るのやめろよ。玄関から入ってこい」

「えー。ウチ出るのにいちいち『たかちゃんち行ってくる』って言うのめんどいしー」

「危ないだろ」

「今更?何言ってんの?」

笑いながら俺の隣に座って

「一人?おじさん残業?」

「接待だと。母さんは仕事」

「ふぅん…。だったらウチでご飯食べればよかったのに」

「一応、用意してあったからな」

箸でテーブルの上を指し示すと、

「たかちゃん、自分で焼いたの?凄い!!羽付きだ~!!」

食いつくとこ、そこかよ!?

「チルド餃子に『羽の素』って液体が入ってた」

「へぇ~!美味しそう」

あんまり笑顔で言うから。

餃子を一つ箸で取ると、美夜子の口元に差し出した。

「食う?」

「うん!!」

大口開けてまるごと一口で頬張ると、途端に目を見開いた。

「~!!辛っ!!たかちゃんラー油入れすぎっ!!」

「そうかぁ?」

急いでお茶を飲む美夜子を見ながら、俺は笑いを浮かべた。

「…でもたかちゃん、料理出来るようになったんだ」

「必要に応じただけだけどな」

母さんが看護師の仕事に復職して夜勤が増えてから、こんな日が多くて。

自然と自分の事は自分でやるようになっただけだ。

「必要か…。たかちゃんは凄いよ」

ぽつりと静かに呟いた。

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