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ショートラブストーリー

第5章 遥(はるか)

「はい、どうぞ。ブラックでよかったよね?」

「はい。ありがとうございます」

私は部屋に池上くんを招いて、コーヒーを淹れた。

机を挟んで向き合って座ると、私は一つ咳払いをして

「昨日は本当にありがとう。あと、千秋たちにお風呂での事言わないでくれたのも、ありがと 」

「そんな…気にしないで下さい」

「でね、あの時だけど…見た?」

私の問いに、池上くんは凍りついた。

「は、あ、えー…湯気!!湯気でほとんどはっきり見えてないです」

「ほとんど?はっきり!?」

「あ、えと」

池上くんは俯いて、机を指先で何度か叩くと

「見ました。…すみません」

そう言って頭をさげた。

「謝らなくていいよ。…あれは私が悪いんだから。ただ…確認したかっただけ」

だけど、と心の中でため息をつく。

告白する前に裸見られるってどうなんだろ。

何か…意欲が削げちゃったなぁ…

「えっと…じゃあ、池上くんの話って?」

「はい!!…っと…あー」

かなり言いにくそうに、頭を抱えてる。

「何から言えば一番伝わるか…うーん…じゃあ、まず誤解を解いときたいんだけど、俺、絵理子ちゃんと付き合ってないです」

「…うん」

「で。あの時は木下さんにだいぶ飲まされて…俺、あんまり酒強くなくて。廊下で休んでたら足もつれちゃって、絵理子ちゃんに助けてもらったんです」

「…はぁ」

で、私はそれを見間違えた…って事なの!?

「絵理子ちゃんが池上くんの事好きだって聞いて。…で、池上くんも誰かに告白するって言うから、てっきりうまくいったのかと…」

「え!?何でその事…」

目を見開いて、戸惑ってる。

「坂口くんと話してるの、聞いた」

コーヒーを飲みながら何でもないように話す私を、額に手を当てて苦笑いを浮かべて見ている。

「水沢さん、恐ぇ~」

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