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ショートラブストーリー

第5章 遥(はるか)

お風呂場にシャワーの音が響く。

立ち上る湯気とシャワーの水音の中で、私はため息をついた。

…どうしよう。

池上くんのことは好きで、こうなる事を望んでない訳じゃない。

だけど…いいのかな。

私は服を着たまま、シャワーを浴槽に向けて考えてた。

浴槽にはシャワーから流れたお湯がどんどん溜まっていく。

自分の考えがまとまるまで、と、こんな偽装めいた事してるけど、結論は出なくて。

もう、いっそのこと流れに任せてしまおうか。

後ろ向きな決意が固まりかけたとき…

「…そうだろうと思った」

池上くんの声が、お風呂場に響いた。

驚いて振り返ると、入り口に凭れて池上くんが立っていた。

「水沢さんが自分からシャワー浴びに行くの、おかしいと思ったんだよね」

水沢さん、に戻ってる。

「あ、これは…その…」

急いでシャワー止めて、池上くんの様子に戸惑ってると

「俺、帰ります」

池上くんが目を伏せてポツリと呟いた。

「え…」

「困らせるつもりじゃなかったんです。でも、自分の気持ち押し付けて迷惑かけて…すみません!!」

頭を下げて謝ると、池上くんは玄関に向かった。

「ちょ…待ってよ!!」

靴を履きかけてる池上くんの腕に抱きついた。

「迷惑だなんて言ってない!!」

「え…?」

「急だったから戸惑ってるけど…私も池上くんが好きだから嬉しいの!!」

ぎゅっと抱きしめて、真っ赤になってるだろう自分の顔を隠した。

「も一回言って?」

「…やだ」

「年上なのに…何でそんなに可愛いんですか」

見上げれば、優しい目で私を見てる。

「池上くん、顔赤いよ」

「…誰のせいですか。そっちこそ真っ赤ですよ」

池上くんの手が私の頬に触れた。

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