未成熟の推察
第1章 ミク
ちゅうまるうどんは、全国展開しているチェーン店だ。
ミクはそのカウンター席に座り、かけうどんにふうふうと息を吹きかけていた。
少女にとって初めての外食であり、これからのことを考えると、とても喜んでなどいられないが、それでもミクは笑顔だった。
「七味唐辛子を入れると、さらに旨いぞ」
「ほんとに?」
横に腰かける男の名は灰。
大柄でがっちりと引き締まった体を、黒いコートで隠していた。
顔をしかめるミクを笑い、水を手渡す。
「もー……ほんなことばかりしてると……地獄に落ちるよ!」
「望むところだ」
灰は路上で座り込んでいたミクを拾った。
情けなどではなく、自分の仕事に使えそうだと感じたからだ。
まだ無垢で社会を知らないガキが、この社会ではうまいこと動けるのだ。
灰は店内を見渡して、やや警戒しながらも、ミクが食べ終わるのを待った。
ミクは全く焦ることなく、麺を一本ずつ口へ運ぶ。
「そんなに見てもあげませんよ」
「腹は一杯だ。可愛いミクを見ているだけだよ」
「それはありがとう」
ミクは素直だった。
謙虚とか、自尊とか、そういう面倒なものをまだ知らないのだ。
それ故に、灰もまたミクに素直になれた。
この風変わりな二人が、この物語の要になる。
と思った諸君には申し訳ない。
彼等の出番はしばらくない。