未成熟の推察
第1章 ミク
カルツアイ、という単語を知っているだろうか。
それは「うざい」とか「きもい」とか「ダルい」とか言ってもしかたない言葉の総称のようなもので、最近の若者言葉として流行っていた。
匠もまた、その言葉を使う。
「カルツアイ」
匠は渋谷駅で煙草を吸いながら、夜空にカルツアイを放つ。
煙とともにカルツアイは東京の空に昇り、どこへともなく消えてしまう。
匠は本日、スロットに三万円吸い込まれていた。
シャグラーであそこまで負けて、いっそ清々しかった匠だが、それでも今夜寝る場所がないとなると、きついものがある。
「なぁ若いの、お前さんタバコくれんか」
「やらねぇよ。うせろ」
「タバコくれたら、いいこと教えてやるよ。それに、暖かい布団で寝れるぞ」
「カルツアイ」
匠はホームレスを上から下まで観察する。
ボロボロのスニーカー、何日も洗っていないような服、ヤニで汚れた歯。
こんな負け組が自分の寝場所を用意してくれるとは到底思えなかった。
しかし匠は普通じゃない。
「いいよ、オッサン。ほらよ」
「あんがとうよ。助かるぜ。まずいいことを教えよう。もう一回だけシャグラー打ちに行ってみな。寝床はあとで教えてやる。俺はここで待ってるから」
「なんだよ、それ」
馬鹿らしいと感じながらも、匠はライターをホームレスに投げ、忌々しいシャグラーを打ちに足を踏み出した。