
隠れて甘いkissをして
第49章 七瀬隼人
グラスを持っていた自分の手が、震え始めた。
「次の年から小学生になる隼人の姿を見る事なく、隼人の父親はこの世を去ってしまった。
隼人は……状況をいち早く察知してね。
とにかく自分の母親を守ろうと必死でな。
身体の弱い妹に付き添って、離れなかった。
だから……父親が死んだ時だっていうのに
あいつの涙は、一度も見なかったんだ」
胸がいっぱいで、何も言葉に出来ない。
まだ5才の隼人が……涙を堪えて一生懸命お母さんを支えようとする姿が、目に浮かぶようだった。
シゲさんは続ける。
「塞ぎ込んでいた妹も、そんな隼人の姿に心を打たれたんだろう。
少しずつ……とってもゆっくりだったけど、失った悲しみを乗り越えようと努力していた。
残された愛する人の子と一緒に、生きていこうとしていたんだ。
……だが………」
