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片想いの行方

第57章 溢れる想い

「………ずるい?」




俺が聞き返すと、彼女は表情を戻した。




「蓮も、もう一人の彼も。


“ 決めてもらえなかった ” ってことが、どこかで引っかかってるのよ。


彼女が別の誰かを好きになったわけじゃないから。


もしかしたら自分だったかもしれない。

本当は相手だったかもしれない。


彼女の選ばなかった結果が、自分たちの強い想いの行き場を無くしてしまったのよ。


……あなた達はずっと、その想いが彷徨っているんだわ」




「………………」





俺はグラスを置く。





「そんなんじゃねーよ。

あの時は、それが答えだったんだから仕方ねーだろ。

俺も奴も受け止めたし、別に引っ掛かってなんか……」



「ほら、図星でしょ。

いつも穏やかなのに、本音になると本来の口調に戻る」




……その指摘に、何も言い返せないでいると



彼女は再び笑った。




「本当のことだと思うから、謝らないわ。

心から愛してる人に、長年の恋話を聞かされたのよ?

これくらいのイジワル、許してよね」



「…………っ」





俺が次の言葉を発する前に、彼女は視線を避けて立ち上がった。





「明日はパリまで直行なの。


オフの時間で、我慢してたスイーツを頬張って


コートも靴も衝動買いして、エステも堪能するつもりよ。


女の楽しみはいくらでもあるの。




………だから私は大丈夫。




元気でね」

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