
片想いの行方
第58章 忘れられない人
その時、カバンの中の携帯が鳴った。
ゆっくりと取り出したその画面を見て、私は言葉を失う。
………こんなタイミングがあるだろうか。
「………蓮くん…………」
『美和』
携帯を耳にあてると、少し息切れした声が聞こえてきた。
『突然電話してごめん。
今どこにいる?』
「……今は……」
自分の居場所を伝えると、蓮くんは少しだけ沈黙した。
「……蓮くん?」
『あぁ、ごめん。
すごく近い位置にいるから驚いた』
周りの喧騒の中でも、その声ははっきりと私の耳に届いて
胸に熱い何かがこみ上げてくる。
『美和』
蓮くんが少しだけ掠れた声で言った。
『逢いたいんだ』
私の目から
一筋の涙がこぼれて、頬をつたう。
『……今すぐ、お前に逢いたい。
今のお前の状況は承知の上で、電話したんだ。
………勝手な事を言ってるのも分かってる。
だけど少しでいいから
俺に時間をくれないかな』
