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殺人鬼の棲む島

第20章 3日目 昼 リビング

元々テレビなどほとんど観ることのない彼女はワインとクラシックさえあれば充分だった。

うっとりと耳を傾けながら93年もののトスカーナの赤で喉を潤す。

プレーンオムレツを柔らかく切り、口に運びながら頭にあるのは今書きかけの小説のこれからの展開だった。

『陽だまりの仮面』というその小説は歪な心を持つ少女の恋愛の話だ。

読むものの心を揺さぶる可憐な作品は普段からこのような製作過程で造り出されていた。

卑猥なことを妄想しながら、時には自らの身体を触って感触を確かめながら製作するすまいるの作風とは雲泥の差があると言える。

交響曲がクライマックスに差し掛かる寸前、ガタッという音がキッチンから聞こえた気がした。

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