とあるホストの裏事情・完
第31章 氷悠 × 遥 ー 守りたいもの ー
「おい、遥、なにしてんだよ…」
少し冷静さを失ってしまいそうになる。
そのせいか、怒りで声が震えていた。
誰だよ、遥をこんなんにしたやつ…
「酔っぱらいの喧嘩に巻き込まれて、こうなった。 俺らが気づくまでそこまで時間かかってなかったんだけど…」
研斗が不安そうに遥を見ながら言う。
商売道具であるはずの顔は、血が滲んでいるところが多々ある。
こいつは喧嘩なんて趣味ないし
そんなのとは無縁な、平和な生活を送っていた。
「遥… 誰にやられた?」
「はは… そんなの覚えてるわけないじゃん。 てか、そこまでやられてないし」
「どこがだよ… お前弱いだろうが! 喧嘩なんかできねぇだろうが!!」
「顔やられたのは致命的だけどさ、目も見えるし骨も折れてないし大丈夫だって! そんな深刻にならないでよ」
「お前がやられてんだぞ… そりゃ深刻にでもなるわ…」
違う、怒りたいんじゃない。
声を荒げて怒る相手は遥じゃない。
わかってるけど。
「傷の程度とか、そんなもん関係ねぇんだよ… お前がやられてることに対して問題があるんだよ」
「なんでだよ… 僕平気だし…」
と言いつつも、涙目の遥。
あーもうくそ…っ
「ごめん将悟、研斗… こいつ連れて帰るわ」
「あぁ、お大事にな。 オーナーには俺らから伝えておくから。 遥、安静にしとけよ」
「顔治るまで店来んなよ! ちゃんと万全の状態で来いよ!!」
二人の声を背に、俺はさっき来た道を帰っていく。
まともに歩けない遥を支えて。