とあるホストの裏事情・完
第31章 氷悠 × 遥 ー 守りたいもの ー
「傷、まだ痛むか?」
帰りの道中、寂しく流れるラジオの音が車内に響いていた。
気まずい沈黙をなんとか破り、信号のところで遥に声をかける。
「ちょっとだけな。 てか、痛くないし…」
「嘘つくなよ。 口切れてるし、お前抵抗できなかったんだろ」
「だって… なんか強かったし… 怖かった…っ」
ついに、泣き出した遥。
なんでお前みたいな弱いやつが強がるのか
俺にはさっぱり訳がわからん。
声を漏らして泣く遥の頭を撫でると
余計に涙がこぼれ出していた。
「俺の前では我慢しないで。 頼むから…」
「ん… うんっ…」
一切傷のついていない拳で
涙を拭う遥。
びっくりしただろうなー…
喧嘩でなぐられるとか、人生初だろ、多分。
そんなことを考えていると、家に着く。
もちろん、俺の家だ。
俺の家には
遥用のパジャマもあるし
遥用の歯ブラシもあるし
遥用の下着もあるし
遥用のお菓子もある。
いつでも遥はウェルカムなのだ。