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君の瞳に映るもの

第3章 戸惑い

 その言葉の裏に、どれだけの想いがあるのか表情からは読み取れない。

 自然に力が抜けて、零一の目を真っ直ぐに見つめると、零一は掴んでいた手を離し、私を抱き締めた。

「やっと、会えた……」

 耳元で聞こえた声は少し震えていて、その腕に力がこもる。

 どうしてそんなに……。

 その真意はわからなかったけれど、この状況で零一を拒否することはできなくて、私の腕は零一の背中に回り、抱き締め返していた。

 電車の中で初めて会って、五年やそこら会わなかっただけで、こんなにも感情がこもるものだろうか。

 ちゃんと言葉にしてくれないとわからないけれど、聞いてしまうのは野暮な空気の中で、感じ取れるのは、そこに、悪意がないと言うことだけだった。

 甘い、沈黙の中。

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