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冴えかえりつつ 恋

第4章 県美で

泰弘は困惑していた。

展示室に入った瞬間遥暉があまり綺麗だったから、もう少し近くで見たいと思って近寄ったら、足元に葉書が落ちてきて話し掛けることができただけでもラッキーなのに、こんな縁に繋がろうとは思いもよらなかった。


だが、どうして上出が自分を警戒するのか、やはり心当たりはない。


「すいません、鑑賞のお邪魔でしたね。失礼しました。」

「あっ、いや…。」

遥暉はニコリと笑い頭を下げてアッサリと目の前の作品に集中しはじめた。

上出も「ありがとうございました。」と頭を下げて、遥暉の少し後ろに立ち同じく前を向いた。

「じゃあ…。」

それ以上話しかけてはいけないように感じ、なんとなくその場から離れ、部屋の隅へ移動して二人を振り返る。


熱心に見ている遥暉とは対照的に上出はあまり絵画に興味はないようだ。

上出は常に遥暉の左後方に仏頂面で立ち、遥暉が話し掛けると笑顔で答えている。

どう見ても彼女の趣味に付き合わされてる感じの、デートにみえる。


「やっぱりデートの邪魔されて不機嫌だったのかな…。」


もう一度振り返る。

綺麗でたおやかな遥暉と長身でハンサムな上出は完璧な一対に見える。

対照的なようで柔らかく絡み合う空気。

本当に雰囲気がある。



「…ってか、自分と同類に見るのは良くないよな。」

ーーでも、自分とアイツもあんな一対だといいのに。

今日はたまたま1人だが、泰弘もいつもは親友と美術展へ出掛ける。
その親友も絵画に興味があるわけではなく、泰弘に付き添っているだけだと、本人は言う。

退屈ではないかと問うと、ニヤリと笑って、こたえる。

ーー絵に夢中になってるお前を鑑賞してる。

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