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冴えかえりつつ 恋

第8章 トラウマ

ホームに滑り込んできた電車に4人で乗った。

すし詰めの電車で会話ができるわけでなく、ただ荷物のように押し込まれた遥暉たちは同じ駅まで運ばれて行った。



上出は天井の手すりをつかんで、体を支えていた。


遥暉は上出にしがみ付くように向かい合わせで立っていた。


電車が揺れて遥暉の髪が揺れると、女子みたいなシャンプーのいい香りがして、誘われるように目を閉じ香りに癒される。


視線を感じて顔を上げると、吊広告の向こう側からこちらを見ている慶矩と視線が合った。


上出は少し苛立った。


どう頑張っても家柄と顔だけはどうしようもないという挫折を、小学校で味わった。


最近では地下鉄で慶矩をみても挫折感もなく、克服できているものと思っていた。


だのに、なぜか遥暉の手を握ろうとした慶矩を見た瞬間、手首をつかんで牽制してしまった。




上出は反省しつつ深く落ち込んだ。



―――これはやっぱり2度も同じ女の子に振られたトラウマだ。



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