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冴えかえりつつ 恋

第10章 発作

上出は遥暉の体を、膝をつく寸止めのところで、しゃがみ込むように抱えている。


「気をつけろ」


遥暉をベンチに座らせると、正面にしゃがみ遥暉の顔を覗き込んだ。

上出が遥暉の左太ももを手で抑える。


「感覚あるか?」


遥暉は首を横に振った。



左足が微かに震え、痙攣を起こしているのがわかる。


夕日に照らされた遥暉の顔は泣きそうなのをこらえているように見えた。



「犬養の家に連絡するか?」


小さくうなずく遥暉。


上出は携帯を取り出しどこかに電話した後、何もできず呆然としていた泰弘に振り向いた。


「市内にある遥暉のばあさん家から迎えの車が来ます。

20分くらいで着くそうですから、俺それまで一緒にいるんで、岡田さんはもういいですよ」


「い、いや。20分くらいなら付き添うよ。丸山君が心配だ」


ちらっと泰弘を見て

「そうですか。」

とつぶやいた上出の表情に少しだけ不服の色がみえた。


「大丈夫、すぐに迎えが来るから」

優しく落ち着いた声で遥暉をなだめながら、膝まづいて左足をマッサージしはじめた。


「誰しも新学期が始まって疲れが出るころだよな」

大したことではないように遥暉に話しかける。表情もとても落ち着いて優しい。


上出の語りかけに、泣きそうだった遥暉の表情も落ち着いてきた。



泰弘は先日弟と話したことを思い出して、上出と遥暉の関係を改めて気が付いた。


――そうだ、公園で丸山君のことを『可愛い』と慈しむような目で笑っていた。

上出君は人に頼まれたから丸山君と登下校を共にしているわけじゃない。

丸山君が大切だから、自分の意志でそばにいるのだ。



しばらくして現れた、スーツの中年男性とキリリとした老女が遥暉を迎えに来た。

「俺が遥暉を抱えて行くんで、岡田さん荷物お願いします」

上出が遥暉をお姫様だっこして、歩き始めた。

泰弘は言われるがまま、遥暉と上出と自分の3人分の荷物を持って後について歩いた。

白い大きな国産高級車に遥暉を乗せた後、二言三言老女と上出が言葉を交わして車は出て行った。






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