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失恋少女のアバンチュール

第1章 プロローグ1



「千晴っ…?!」


私の姿を見た渉は、一瞬驚いた表情をしたけれど気まずそうに視線を逸らしてしまった。


「渉…どういうこと…かな?」



何とか絞り出すように出たのはこの一言で…涙でぐちゃぐちゃになった私の顔はとても酷かったと思う。



「ごめん。最初はお互い遊びで付き合ってて。

でも…今、俺の一番はコイツになっちゃって…。

千晴は、優しくて良い子だから言いづらくてさ…。

こんな形で言うのは変なんだけど…


……別れて欲しい。」



「わた、る…?なに、それ…
意味、わからないよっ…!別れる、とか…そんな言葉聞きたくないっ…。」



涙でいっぱいの顔で睨み付けていた。


渉の言葉を信じたくない。


渉は戻ってきてくれるかも。



「千晴…俺が全部悪いんだ。だから、殴ってくれて良い。

本当ごめんな…?」



深々と頭を下げてくる。頭の中がぐちゃぐちゃになっていて渉の言葉通りに腕を振り上げた。



これで降り下ろせば良い、この一発で渉の事忘れられるかもしれない。



でも…頭の中を過ったのは、渉と過ごした日々。
高校の先輩だった渉に告白して付き合ったこと。
初めてのデートは遊園地だったこと。
そのデートの後に渉のアパートに泊まって初めてのエッチをした…
私の誕生日には誕生石のついたリングをプレゼントしてくれた。
そのリングは今も私の右手薬指で輝いている。



渉とたくさんの思い出がまだまだある。この思い出がもう出来無くなってしまうんだ。


振り上げた手は叩くこと無く力無く下ろしてしまった。
でも、渉が選んだ事だから…どんなに足掻いても状況は変わらない。



「叩いてあげない…。
渉の事…忘れてあげる。

私を振ったこと後悔しても知らないから。
もう、会うことはないと思うけど…今より綺麗で良い女になってるから。」



これ以上此処には居られない。

速く立ち去りたい。

二人に背を向けると床に落ちたケーキはそのままに部屋を飛び出した。

後ろで渉が何か言ってたような気がする。でも、もう聞きたくない。




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