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恋してキスして抱きしめて

第13章 夏の嵐

「……ユーリ……?」



触れるギリギリまで伸ばした手を、直前で引っこめた。


その反動で、固まっていた足が1歩後ろに下がる。



「……あ、あの……」



俺が手を引いたので、反対に朱莉の左手が宙に浮いてしまった。



………落ち着け、俺。


落ち着け、落ち着けよ……!



「……ユーリ、私……」

「ははっ、すげー偶然♪」

「…………!」

「幽霊かと思って、一瞬固まっちまった」



ドクドクと鳴る心臓の音がうるさくて、自分の声が耳に届かない。


とにかく、早く此処から去らないと……


必死で抑えている心の声が出てきてしまう。



「元気そうで安心したよ。
髪が短くなった以外、変わってねーな」

「………っ」

「って俺、こんな所で何してんだ。
会社遅刻するっつーの」



朱莉から視線を外して、わざとらしく呟きながら腕時計を見る。


相手に何も喋らせないように、質問や近況を聞く言葉は一切出さずに


俺は来た道の方向に体を戻した。


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