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短編集。

第2章 客×花魁





そう言って僕の腕の中で。
僕の顔に手を伸ばしてくるかい。


「魅姫…はっ…出会えてよかった
名前も何も…まだ、教えてないのに…」


すかさず、かいの手をとって僕の頬にあてがう。


「いい…っ。いいのっ!名前なら知ってる。
僕だってあなたに会えたことを嬉しく思ってる
だから、そんなもう会えない
みたいなこと言わないでっ…お願ぃ…っ」


僕の涙が忙しなくかいの頬に落ちる。


「ごめ、んな。魅姫との出会いは最高にするつもりだった
なのに…あんなことをしてごめん。
ずっと、罪悪感ばかりが張り付いて剥がれなかった。
だけど、今謝れて嬉ぃ。

ねぇ、魅姫?俺の名前…呼んで?」


苦しい筈なのに、あまりにも綺麗に笑うかいがとても儚く見えた。
そして、名前を呼んだらかいが遠くに行ってしまいそうで怖かった。


「ねぇ…呼んで?」


力を振り絞って身を起こし、僕に抱きついてキスをしてくるかい。


「か…ぃ…かい、かぃっ…かいかい!」


名前を口にしたら名前を呼び続けないと
かいが目を閉じそうで怖くて涙が止まらなかった。


「ははっ…やっと…魅姫に呼んでもらえた…」


だんだん、かいの手の力が弱まっていく。
血が、止まらない。嫌だ!嫌だ!!


「かい!目開けて!瞑ったらやだ!!」


でも、かいは眠たいのか目を瞑っていく。
そして最後に一言。


「あいしてる」


それを残してかいは眠りについた。




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