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白の歌姫

第3章 もうひとつの旋律

季節はすっかり夏となり、毎日蝉が命の歌を歌っていた。
窓を開けたならその夏の風物詩を感じられるだろうが、梨杏は今日も小さな音楽室で朝から高橋の指導を受けていた。

「もうすぐで夏休みですね。今年も補習をしましょうか。」
高橋が言った。
梨杏には家族も友達もいないから、夏休みは無論予定がなかった。
小さく頷き、同意する。
梨杏にとって、この小さな音楽室が、高橋が全てなのは確かな現実だ。

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