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白の歌姫

第4章 それから

その新鮮なピアノに身を任せ、梨杏は歌う。
アメイジンググレイス。


結城はこの時初めて梨杏の声を聴いた。
澄んだ美しい、美しい声を。

窓から梨杏の声が流れ出る。
夏の日射しの中に消えていく。

突然、結城は伴奏を止めた。
冷めた、暗い瞳で梨杏を見据える。
「ひどい歌だ。」
それだけ呟いて、小さな音楽室を後にした。


小さな音楽室に梨杏は一人取り残され、訳もわからず立ち竦んでいた。
窓から蝉の声が入り込む。
呆然とした梨杏の耳には、やっぱり今日もその声は届かない。

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