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白の歌姫

第4章 それから

それからは、毎日同じように結城がやってきて、ピアノの前に座り、時計を見ては、帰って行った。
そして、梨杏は窓を閉め高橋を待つ。
いつものように指導が始まり1日が終わる。

梨杏は少しずつ結城に慣れていった。
夏休みも半ばを過ぎて、窓から流れ込む風が少し柔らかさを伴い始めた頃、梨杏は結城に近付いて、楽譜を渡した。

『アメイジング・グレイス』
つい最近まで高橋に指導されていた曲だった。

「これを聴かせてくれるのか?」

梨杏は頷いた。
結城は楽譜を受け取り、鍵盤に手を添える。


小さな音楽室に、高橋のものではない旋律が流れる。
高橋のピアノだけを聴き続けてきた梨杏にとっては新鮮な音楽。

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