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いつくしむ腕

第2章 故人を偲ぶ

「やっぱり私達から見ると、果夏ちゃんは“若い子”なのよ」
火葬場での待ち時間中、同僚がぽつりと漏らした。
同僚とは言っても、わたしより20以上も年上の方だ。
何について?と問い掛ける意味で、眉を持ち上げてみせる。
「何て言うか、話し方?あとは、そうねえ…距離感かな」
「話し方。愛想がないってことですかね?」
「うーん、そうじゃないんだけど…難しいな」
話し方。距離感。自分なりに頭を働かせてみる。
確かに、話し方で誤解を受けることは昔から多々あった。
“今時の若者“ってのが、どんな話し方なのかは解りかねるけど。
距離感は恐らく、人が苦手だからだろう。
元々、あまり距離を詰めるのは上手くない。
現代人は、昔に比べ人付き合いが希薄らしい。
そういうことが言いたいのかな、と彼女の方を見ると、
未だどう伝えたらいいか考えあぐねているようだった。

晴れた日の、緑に囲まれた火葬場の空気は、不謹慎かもしれないが気持ちがいい。
わたしはこの穏やかな時間が好きだ。
全てから遮断されたような、非日常のような感覚。
もうすぐ、遺族がこちらへ向かってくる時間だ。

「果夏ちゃんに限らず、斎藤さんもそうなの」
斎藤さんというのは、最近入ったばかりの、言わば後輩だ。わたしよりも年は10上。
「斎藤さんは、気持ちが若い気がします。今までいない感じの方なので、わたしは接してて楽しいですよ」
それは本心だ。新鮮な気持ちになるし、何よりやはり人手が足りない中で入社してきてくれたことが嬉しい。
しかしまた、新しすぎる風になる可能性も秘めた人なのだ、と恐らく先輩方は警戒している。
あまり先入観は抱きたくないものだが。

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