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いつくしむ腕

第2章 故人を偲ぶ

現在の会社に入社して、4ヶ月ほどになる。
仕事がなかなか決まらなくて、失意のどん底だったわたしを 拾い上げてくれた会社。
「面接すらしてもらえない?それはひどい。会ってみないと、やっぱり分からないもんだね。良い子で良かった」
面接の際の社長の言葉。
ひとつ前に受けようとしたところは、わたしが“病院通い”なのを理由に会ってすら貰えなかったのだ。
「桝谷さんが、これからここで“生まれ変わるんだ”って気持ちでやっていけるなら、是非うちとしては来てほしい」
鼻の奥がつん、とした。
こうして、面接日にわたしの入社は決まった。
新しい日々の始まり、と自分に言い聞かせた。

「斎藤さん、少しは慣れましたか?」
どうも疲れた様子の彼女が放っておけなくて、二人きりになるといつも確認してしまう。
拭いている食器から目を離さず、斎藤さんは口を開く。
「慣れない…ですねえ。まだまだよく分からないし、やっぱり言い方というか…そこ気にしちゃって」
言い方、というのは、我々より年上の方々の口調のようで。御姉様方の言葉が、斎藤さんには手厳しく聞こえるらしい。わからなくもない。
「こういう場だから、どうしても皆きつくなってしまうのかも。しっかり間違いのないように、って」
「でも、そんな言い方しなくても…って思っちゃうんですよねー」
「わたしも何度か泣いてるので、わかります。でもね、後腐れすることはほぼないから、ああこの人はこういう人なんだなって思って割りきれたらいいかなあ」
少し笑いながら、自分に言い聞かせる意味も込めてそう言った。まだ入ったばかりで、ただでさえ心細いだろうにこれ以上窮屈な思いはしてほしくない。
そうですよねえ、と肩を落とす彼女の横顔を見つめる。
ここのところ仕事が詰まっていたせいか、瞳に覇気がない感じがした。忙しくて息子さんとも上手くコミュニケーションが取れていないらしい。

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