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晴れと雨

第2章 慣

ドアノブに手をかけると、カギがかかっていた。

「?」

いつもなら開いているのに。
貴史は、久しく取り出していない家の鍵をキーケースからとった。

「……」

しばらく使っていなかった。
朝は見送りついでに渚が施錠してくれる。
夜は帰る時間に合わせて渚が開けておいてくれる。
そして玄関を開ければ。

「…」

おかえりなさい。
その言葉が待っていた。
今日はない。
キーケースを靴箱の上に置き、薄暗いリビングに入る。
シンと静まっている。
…出ていったのだろうか。
何かしてしまった?様子は変わらなかったと思う。

「…俺はなにを」

考えているんだ。手で視界を塞ぎ、俯いた。

「貴史さんっ、すみません、すぐ夕飯つくるでっ」

気づいた時には、部屋に明かりが点り、駆け足で台所へ向かう渚がいた。
途端に、貴史の中に安堵の色がひろがった。
安堵している自分に再び驚く。
確実に、渚は俺のなかで存在を主張し始めている。
安堵と不安。
貴史は、両極端なそれにため息をついた。

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