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晴れと雨

第2章 慣

急いで帰宅したが、結局貴史さんを出迎えることは出来なかった。
何故か明かりも着けずに部屋にいた貴史さんに、わざとらしく声を掛けてしまったけど、まずかっただろうか?
でも、何も言われてないしな。
今は、入浴している貴史さんだけど、少し様子がおかしかったようにも見えた。
俺の顔を見るなり、眉間にシワを寄せ、睨んでいるような…
やっぱり怒っているのか?
俺はサラダにのせるトマトを切りながら思案を巡らせていた。
夜に重いものは食べたくない。
前にそう言われたので、今日はサラダ、蒸し野菜多目に豆腐ハンバーグ小さめ、ついでにコンソメスープを作った。

「っ」

考え事に気をとられ、左人差し指に切り込みを作ってしまった。
トマトの赤さだけでない赤がじわりと広がる。

「それはドレッシングにでもなるのか?」

いつの間にか湯気を纏った貴史さんが、背後に立っていた。
驚いてつい、大きな声が出てしまう。

「ぅっわ、背後に立たないでくださいっ、つか心配くらいしてくれてもいいでしょうっ」

「…心配ね」

貴史さんは、聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟くと、俺の手を引いてリビングのソファに座らせる。
絆創膏を持ってくると、ガーゼで血液を拭い、丁寧に巻き付けた。
俺はなんだか照れ臭くなって、訳もわからないことを言ってしまう。

「こ、こんなときは普通、口で血を吸ってもらえたりするもんじゃないですか」

だって、こんなに近づいたことないから。とにかくこの距離が恥ずかしかった。
貴史さんは、フッと口角を上げると、俺の目を見る。

「お前がそうしてほしいなら、するけど?してほしいの?」

この人、こんな風に笑うんだ。初めて見た。整った造りの顔に見とれてしまう。
あれ、怒ってないのかな?だとしたら良かったけど、俺の恥ずかしさは、あっという間にキャパシティを超えた。

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