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晴れと雨

第2章 慣

あんな風に手を握られたのは初めてだった。
あんな風に笑いかけられたのは初めてだった。
あんな風に言葉を交わしたのは初めてだった。
あんな貴史さんを見たのは初めてだった。

男相手に鼓動が早くなるなんて、自分でもどうかしているんじゃないかと思う。
でも貴史さんはあの見た目だし、今までが今までだったし、嬉しかったのもあるしで、自分は正常なんだと言い聞かせる。

「女の子じゃないんだからさ」

浴槽に浸かりながら、顔面の紅潮を静める。
渚は、悔しくも自分をここまで辱しめた相手を思い出していた。
色は白くて、指が長くて。
女の子か。女の子が放っとかないような外見のくせして、そんな影もないし。
いつか、もっと親しくなれたら、貴史さんのこと聞いてもいいのかな。
いつまでこうして居候していていいんだろう。
それこそ貴史さんが結婚するなんてなったらいられないしな。
前髪から滴る水滴を感じながら、目を閉じる。

もっと早く上京していれば、生まれていれば、貴史さんと親しくなれたかな。

揺れる水の音を聞きながら、ゆっくり、顔を沈めていった。

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