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晴れと雨

第3章 日

「貴史さん、あそこです。案外とでかいでしょ?」

「本当だ。おかしいな、毎日通ってるはずなのに気づかなかった」

「えー、危ないな、ちゃんと周りみて歩いてくださいよ」

様になってきた単調な会話。
貴史が言ったように、渚は雑誌しか読まない。
ただ、無趣味かと思っていた貴史の部屋には、処狭しと本があることを渚は思い出した。
本の内容は小説からエッセイ、歴史書まで様々あり、渚の理解力は追い付かなかったが、本が好きだということは伝わってくる。
渚は真新しい本屋に入るウキウキとは別の心情で、心踊っていた。

「あれ?若月くん?」

本屋に入るとすぐに声を掛けられる。
瀬川菜々子だった。

「あ、瀬川さん、こんにちは。奇遇ですね。あ、こちら居候させてもらってる貴、じゃない鈴村さんです」

「ああ。えと、瀬川菜々子です。いつも若月くんにはお世話になってます」


「はあ、どうも。…渚、俺は本見てくるから」

貴史は挨拶もそこそこにすたすたと店の奥に姿を消していった。

「え、ちょっと貴史さ…」

渚は貴史の空気が変わったことに気付いた。
急につんとしたような。
ただ、それが何故なのかはわからなかった。

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