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晴れと雨

第3章 日

「貴史さん、なんかすみません」

結局、本屋では渚はずっと菜々子と話していた。
貴史も何故か集中出来ず、当たり障りのない小説をレジへ持っていくことになった。

「べつにあやまることじゃない」

このモヤモヤが晴れないかぎり、貴史は渚に向き合うことが出来なそうだった。
渚も貴史の心情を知ってか知らずか、いつも以上に近付こうとする。

「貴史さん、どこかでご飯食べて行きませんか?この辺のおいしいお店知ってるんです」

貴史が食べ物につられるハズがないことなんて解りきっているのに、渚はどこか必死になっていた。

「わざわざ俺と行くこともないだろう、今日は先に帰っているよ」

貴史は、頭を二三振ると足早に渚から離れて行った。本人はなるだけ角がたたないように言ったつもりが、これではまるで拗ねているようじゃないかと、後で気がついたのは自宅のドアを開ける時だった。
渚が菜々子と楽しそうに話していた顔、不安げにこちらを伺っていた顔、直前の青ざめた顔。
ぐるぐると貴史の頭を巡っていた。

「まるでじゃないな。完全な嫉妬だ」

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