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晴れと雨

第3章 日

「貴史さんっ、ご飯作りますから待っててくださいねっ」

あのあと、直ぐに電話をよこしてきた渚の声は、震えているように聞こえた。

「ああ」

俺は怒っていないよ
言おうとした言葉が、渚の声と息遣いに気をとられ、結局言えずじまいになった。
怒っていない
それは嘘ではない
でも今はあまり話したくない
嫉妬。
男の嫉妬ほど醜いものはない。
ましてや男相手に向けられたとなれば、普通じゃない。
貴史もゲイではない。
恋愛感情とかそんなものじゃない。
もっと深い、真の部分。
口では説明できない、それ。
渚に告げるとなれば、確実に誤解を生む。
貴史は、渚に対しての感情をどうしていいのかわからずにいた。
恐らく、求めているのは家族。
揺るがない愛情。安心。
貴史は人生の根本的な、絶対的なモノが欲しかったのだ。
ただ、渚に伝えるには、リスクが大きすぎる。
誤解されては仕方ない。
今のままが一番なんだ。
貴史は、日の陰り始めた部屋で考え込んでいた。

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